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どこかの大学職員のブログ

教職課程認定申請及び審査に係る情報の公開

 

はじめに

 2021年11月15日開催の中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第5回)・初等中等教育分科会教員養成部会(第126回)合同会議において、「教職課程認定に係る情報の公開について」が議題として提出され、教職課程認定審査運営内規(教員養成部会決定)(p.137)を改正し、課程認定委員会の議事要旨、審査の経過及び結果、申請大学が作成した教職課程認定申請書を認定手続きがすべて終了した後に公開することが審議されました。

 従来は非公開だったこれらの情報が公開されることは、申請大学にとってどのような意義があるでしょうか。

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筆者が考える情報公開の意義

 第一に、各種審査基準等から明示的に読み取れない「指導助言基準」とでも言うべき審査内規が明らかになります。審査は様々な基準、確認事項[i]に基づいて行われますが、それらは、開放制大学・学部の多様な教職課程の審査に対応するため、抽象的かつ最小限の規定に留まっています。一定の合理性はありますが、許認可行政権の乱用に繋がりかねない危険な側面もあります。例えば、教職課程に開設する科目の科目名称について、教職課程認定審査の確認事項(課程認定委員会決定)(p.132)では「授業科目の名称は、施行規則に定める科目又は各科目に含めることが必要な事項の内容を適切に表現した名称とすること」とされていますが、実際の審査では「~の研究」(例えば、教育実習に相当する「教職実地研究」)という科目名称は、教職課程においては基礎的な内容の学修が求められるため、手引きの「各科目の名称例について」を参考に「研究」をはずした名称とすること、と指摘がなされたケースがあります。教育実習についても、「入学定員に応じて、適当な規模・教員組織等を有する実習校が確保されていなければならない。この場合において、…以下の表に定める各区分に応じて定める必要学級数等を満たさなければならない。」(改正教職課程認定基準12(1))とあるのみで実習校の所在地に関する定めはないものの、審査指摘や実地視察指摘においては、学生の通学の便を考慮し、大学が所在する市町村教育委員会において実施することが望ましいとの指摘がなされているケースもあります。近年では、いわゆる「貸し借り問題」についても、理由が不明瞭な解釈変更とそれに基づく審査指摘は許認可行政として問題だと話題になりました。

 

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 課程認定委員会の審査意見が公開されることとなれば、このような「指導助言基準」も明示化され、申請大学にとっても、満たすべき要件が明確となります。そのためには、公開される審査意見を毎年度蓄積していくような取り組みも重要になると思います。職員個人による取り組みでは負担も多く、また、蓄積したナレッジを他大学等に共有する[ii]のも大変ですので、全国私立大学教職課程協会日本教師教育学会あたりが取り組んでいただければと思うのですが。一定程度審査意見が蓄積された後には、現行の各種審査基準等から明示的に読み取れないものについては基準改正や手引きQ&A等への掲載を働きかけるなどし、より公平で透明な課程認定審査を求めていくことが重要だと思います。

 

 第二に、課程認定申請の内容が大学の「社会に対する約束」であることを再認識でき、教職課程設置後4年間を見通した計画で申請するという点が明確になります。課程認定申請においては、申請書の内容は認定年度単年の状況ではなく、「認定年度の入学生が卒業するまでの間の一連の…状況(大学であれば4年間、…)を計画的に記載すること」(教職課程認定申請の手引き(令和4年度開設用)p.225)とされてはいるものの、認定後に教育課程等に変更が生じた場合には、あらかじめ文部科学大臣に届け出ればよく(変更届)、一度認定されてしまえば容易に変更が可能な制度になっています[iii]。一方、課程認定と相補的な関係にある設置認可申請(届出も含む。以下同様。)では、「設置認可や届出設置は、ある年の4月1日における「設置行為」を認可するというより、一定の期間を通じた教育研究活動全体を通じて見た「設置計画」を認可するという性質のものですので、合理的な理由なく変更することは不適切です[iv]。」、「「教育の充実」の名の下に行われる設置計画の変更も、内容及び程度によっては設置計画の不履行に該当し、…ペナルティの対象となり得ます。」(大学の設置等に係る提出書類の作成の手引<令和5年度開設用>p.1)とされ、申請後の計画変更には厳しい対応がなされることがうかがえます。

 設置認可申請の考え方のように、完成年度まで原則変更しないよう教職課程を運営している大学はどれほどあるでしょうか。案外、認定後に変更届で変えちゃえ~という戦略をとる大学も少なくないように思います。今後、課程認定申請書が公開されることとなれば、当該学科等に入学を希望する高校生等が情報にアクセスすることも考えられますので、完成年度を迎えるまでは安易な変更届の使用は避け、課程設置後4年間を見越した申請をするよう心掛けたいものです。

 ちなみに…、以前はよく他大学の「学生便覧」等を取り寄せ教職課程の履修方法を見たりしていましたが、意外と気付いてはいけないこと(教育実習を小中高で共通開設していたり)に気付いたりしてしまうものです。他大学の教職課程担当職員の目に触れることも意識しなければなりませんね。

 

 

設置認可申請における情報公開

 最後に、参考までに設置認可申請における情報公開がどうなっているかというと、申請書類は情報公開の一環として、2009年以降、大学設置室のホームページで公開されています(一部書類を除く。)。また、申請大学においても申請内容をホームページ等で公開するなど積極的な情報公開が求められています[v]

 なお、設置認可審査も含めた我が国の質保証システムのあり方を検討している「質保証システム部会」においては、設置審査における不適合や指摘事項の根拠を明示することにより、審査の透明性を向上していこうという見直しの方向性[vi]が掲げられています。本部会における論点整理も踏まえ、設置認可審査及びそれに付随する課程認定審査における情報公開がどうなっていくのが注視していきたいと思います。

 

 

 

[i] なかには「教育又は研究上の業績及び実績の考え方」(課程認定委員会決定)という委員会の内部文書的性格のものを審査基準として用いているものまであります。

[ii] 各個人、各大学のナレッジを共有するコミュニティとして、龍谷大学小野様が運営されている教員免許事務担当者向けのslackワークスペースがあります。

[iii] 設置計画履行状況調査(AC)では避けるべき科目の廃止、専任教員の変更も課程設置後は変更届で対応でき、“届出”のため、文科省から変更不可と指摘されることもありません。

[iv] 大学設置室『設置計画履行期間中の計画変更等について』https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1368461.htm(2021年11月17日アクセス)

[v] 平成21年3月9日付文部科学省高等教育局長通知「大学の設置等の認可の申請及び届出に係る手続等に関する規則等の一部を改正する省令等について(通知)」http://www.dsecchi.mext.go.jp/hoho/210309tuchi.pdf(2021年11月17日アクセス)

[vi] 質保証システム部会(第11回)配付資料1-1「質保証システム部会のミッションと質保証システムで保証すべき「質」及び見直しに関する方向性について(案)」を参照。