教職課程の質保証システムの見直し―質保証システム部会の審議まとめ案から―
はじめに
2022年2月26日に開催された中央教育審議会大学分科会質保証システム部会(第13回)において、「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について(審議まとめ)(素案)」が資料として提出されました。
本審議まとめ案の概要解説、検討の方向性、質保証の観点でのコメントはすでに先輩猫職員ブロガーが記事を書かれています。
設置認可と課程認定は相補的な関係(high190氏)ですので、設置認可制度の見直しは必ず課程認定制度にも影響してきます。そこで本記事では、教職課程の質保証システムの観点から審議まとめ案への感想を書いてみたいと思います。
質保証システムの現状と課題
大学設置基準及び設置認可審査に関して、以下のような記載があります。
一方で、大学設置基準について、より客観性のある分かりやすい基準とするべきという指摘や、設置認可審査についても客観性のある分かりやすい基準をもとに審査を行うとともに、設置認可審査や設置計画履行状況等調査(AC)における指摘事項の根拠をより分かりやすく示し、透明性を向上させる必要があるという意見、認証評価について評価結果が不適合となった場合の対応を厳格化するべきといった指摘もある(下線は筆者。以下同じ。)。
この指摘はそのまま教職課程認定基準とそれに基づく課程認定審査にも当てはまります。認定基準に関しては、大学等連携推進法人制度創設に伴う連携開設科目の取扱いが新たに定められたり、昨年は科目の共通開設の特例が大きく改正されたりするなど、年々複雑化しています。そもそも、免許法、免許法施行規則、課程認定基準、確認事項、運営内規、相当関係に関する審査基準、業績及び実績の考え方、コアカリキュラム…と教職課程を設置しようとする場合に参照すべき基準が多すぎます。各種基準に定める内容を整理し、より分かりやすい基準に見直す必要性は大いにあります。
審査の透明性向上について、今年度申請分から課程認定委員会指摘が公表されることとなったのはいいものの、指摘に一貫性がないと批判されているのは事務局指摘ですので、こちらも公表しさらに透明性を高めるような見直しが必要と思います。
教職課程認定基準・課程認定審査の改善・充実の方向性
質保証システムを構成する個々の要素(大学設置基準/設置認可制度/認証評価制度/情報公表)の見直しをしていくための視座として以下の4つが設定されています。
・客観性の確保
・透明性の向上
・先導性・先進性の確保(柔軟性の向上)
・厳格性の担保
この視座に基づき整理します。
客観性の確保
審議まとめ案では、
○クロスアポイントメント等多様な働き方が広がっていることも踏まえると「一の大学に限り専任教員となる」という現行の「専任教員」の在り方についてその定義等を見直す。
と見直しの方向性が示されています[i]。設置認可における専任教員の定義が変更になれば、当然に課程認定においてもその定義が見直されることになるでしょう。見直しのイメージでは、専任性の確認に年間担当科目数を用いること、必要教員数に常勤以外の教員も一定の範囲内で算入を認めるということも記載されています。教職では「教職課程認定審査の確認事項」3(1)に専任教員の定義[ii]が規定されていますが、担当科目数に関する規定が加わることも考えられます。また、みなし専任についてはすでに規定があります[iii]が、兼任教員を一定の条件下で専任教員と同等に扱えるようになるか注視が必要です。後者はさすがに難しいですかね。
個人的には、専任教員のあり方を見直すのであれば、全学教職課程センターに所属する教員を申請学科の専任教員に計上できないルール(認定基準3(7))を見直してほしいと思います[iv]。
このほか、
○大学における実務家教員の定義の明確化を図る観点から、専門職大学で示している例も参考に、設置認可の教員審査においての業績の考え方についてより具体的に周知する。
とも記載がありますので、課程認定審査における教員審査に関してもぜひとも同様に対応してほしいと思います。
透明性の向上
審議まとめ案ではこの視座での大学設置基準・設置認可審査の見直しについて言及はありません。教職の観点では、審査終了後の審査委員の公表、先述した事務局指摘の公表について対応してほしいと思います。
先導性・先進性の確保(柔軟性の向上)
この視座においても専任教員のあり方の見直しが示されています。教職の観点では例えば、「教育の基礎的理解に関する科目等」を担当する教員を複数の大学で専任教員とすることなども考えられるでしょうか。
また、
○大学の創意工夫に基づく取組を促進し、今後の大学設置基準の改善につなげるため、内部質保証等の体制が十分機能していることを前提に、教育課程等に係る特例を認める制度を新設する。
ことも提案されていますが、これは教職では「教員養成フラッグシップ大学」の取組みが先行しています。指定大学[v]には教員養成カリキュラム編成の特例が認められ、当該大学の独自色の強い教職課程が編成可能になります。指定大学の取り組みにより効果があることが分かれば、基準が見直され、指定大学以外の大学でも柔軟な教職課程編成が可能になることも考えられますので、こちらも注目です。
厳格性の担保
この視座についても大学設置基準・設置認可審査の見直しについて言及はありません。教職の観点では、後述する情報公表に関して、公表していない大学への指導や変更届提出漏れ等により長らく基準を下回って教職課程を運営していた場合の指導など、対応を厳格化することも考えられるでしょうか。
認証評価制度
教職大学院においては、5年以内ごとに教員養成評価機構による認証評価を受審することになっていますが、教職課程の学士課程レベルの認証評価については、法令上位置付けられておらず、各大学が任意で参加する評価システム[vi]が存在するのみです。自己点検・評価については、教職課程を設置するすべての大学は、教員養成カリキュラムや教員組織について自ら点検・評価を行い、その結果を公表することが2022年度から義務化されます。当面は大学基準協会や全国私立大学教職課程協会等が作成しているガイドライン等を参考に、全学質保証との関係性も考慮し、どのような体制で、どのような項目を、どのように公表するのか検討・実施することが課題かと思います。また、上記の団体等において、グッドプラクティスを収集し、公表するような取組にも期待したいところです。
情報公表
改善・充実の方向性として、審議まとめ案では、大学における取組の充実というよりかは、大学ポートレートの改善や大学が自主的な公表を行うための国の工夫といったように、文科省や評価機関側に工夫を求めています。
教職課程の情報公表については、免許法施行規則22条の6で、以下の項目を公表することが定められています。
一 教員の養成の目標及び当該目標を達成するための計画に関すること。
二 教員の養成に係る組織及び教員の数、各教員が有する学位及び業績並びに各教員が担当する授業科目に関すること。
三 教員の養成に係る授業科目、授業科目ごとの授業の方法及び内容並びに年間の授業計画に関すること。
四 卒業者(専門職大学の前期課程の修了者を含む。次号において同じ。)の教員免許状の取得の状況に関すること。
五 卒業者の教員への就職の状況に関すること。
六 教員の養成に係る教育の質の向上に係る取組に関すること。
しかしながら、公表しない場合でも罰則がないことから、上記項目の公表が十分でない大学や、公表しているものの情報が複数ページに散在している大学等もあり、より充実を図っていくことが必要と思われます。
その他の重要な観点
興味深いのは質保証を担う教職員の資質能力の向上として、大学内で質保証を担う教職員が、評価機関の評価委員を務め他大学の取組を知り、その知見を自大学の質保証に還元するような人材の好循環が提言されていることです。
教職の観点では例えば、教育委員会と人事交流を行い、大学における養成のみならず、免許状授与、採用、研修までを経験し、それらの知見を有した職員の育成なども考えられるでしょうか。
以上ざっくりとした感想でした。今後の質保証システム部会の議論に注目したいと思います。
[i] 専任教員の定義と客観性の確保は一見関係なさそうですが、過去の設置認可審査では、教員の専任性を確認する際に、年間担当単位数や月額報酬、大学以外の業務への従事日数など複数の要素に基づき個々に確認を行っていたようで、そのため、今回はっきりさせましょうということのようです。
[ii] 申請学科等に所属し、申請学科等の教職課程の授業を担当、教職課程の編成に参画、学生の教職指導を担当すること。
[iii] 認定基準4-3(5)ⅰ)(※2)(※3)等。
[iv] Q.学科等にではなく、教職センターのような学内組織に所属する教員は、学科等の専任教員として含めてもよいか。A.学科等の専任教員は、認定課程を有する学科等に籍を有する者でなければならないため、センターのみに籍を置く教員を専任教員に含めることはできない。ただし、センターの業務を本務としている者であっても、認定課程を有する学科等にも籍を置いているのであれば、当該学科等における専任教員として扱うことは可能である。令和5年度開設用手引きに収録のQ&A No.75より。
[v] 今月、東京学芸大学、福井大学、大阪教育大学、兵庫教育大学の4大学が指定されました。
[vi] 教員養成教育認定評価 http://www.iete.jp/certification02/index.html