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どこかの大学職員のブログ

教員免許更新制は教員不足を招いたのか?

 

 

教員免許更新制廃止の報道

教員免許更新制を廃止する旨が盛り込まれた「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」が今国会に提出され審議されています[i]。昨年7月に廃止の方向性が打ち出されて以降、その問題点等を中心に各種報道がなされています。

 

朝日新聞DIGITAL 2021年8月23日)

教員免許の更新制廃止へ 人手不足や負担増の一因と不評:朝日新聞デジタル

 

東洋経済ONLINE 2022年1月7日)

22年度に廃止へ「教員免許更新制」の気になる行方 | 東洋経済education×ICT | 変わる学びの、新しいチカラに。

 

上記はほんの一部ですが、とりわけ、更新制が教員不足の一因と評価されてきたことに言及する記事が目立ちます。4月1日には衆議院文部科学委員会において参考人質問が行われ、日本教職員組合の瀧本中央執行委員長も「人手不足につながったことも明らか」と述べています[ii]

 

更新制は本当に教員不足(人手不足、なり手不足)を招いたのでしょうか??

 

教員免許更新制の概要

まずは更新制の概要を確認します。更新制は2006年の中教審答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」において、教員の資質能力保持のため、定期的に知識技能のリニューアルを図ると提言されたことを受け、2007年に免許法が改正され、2009年4月1日から導入されました。これにより2009年3月31日までに授与された免許状(旧免許状)所持者は免許状に有効期間は定められないものの、更新講習を受講しなければならない期日(修了確認期限)が設けられ、その日までに講習を受講しない場合には免許状は(いわゆる)休眠することとなりました。一方、2009年4月1日以降に授与された免許状(新免許状)所持者は、10年の有効期間が定められ、更新手続きを行わず有効期間満了日を経過すると、免許状は失効することとなりました。

 

講習を受講できる者は、現職教員、教育委員会等が作成した臨時任用教員リストに登載されている者、過去に教員として勤務した経験のある者、認定こども園で勤務する保育士…等であり、教職経験のないいわゆるペーパーティーチャーは受講することができません。また、校長、副校長、教頭、主幹教諭、指導主事等の教員を指導する立場にある者については、申請することで講習を免除することが可能です。なお、休職、産休、育休、海外派遣中等講習を受講することが困難な場合には、申請することで有効期間を延長することができます

 

現職教員の修了確認期限等経過後の状況

更新制の廃止は、中教審「「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会」で議論された後、その下に置かれた「基本問題小委員会」に引き継がれました。このような会議体を設置し、政策形成を行っていく場合、初回の会合等でこれまでの政策や答申、各種統計データをまとめた基礎資料集が提示されることが一般的です。今回も文科省が作成した基礎資料集は提示されているものの[iii]更新制が教員不足を招いたとキッパリいえるようなデータは見つけられませんでした

 

では次に、以下の調査を参考に修了確認期限等[iv]が到来した現職教員の当該期限経過後の状況を確認します。

www.mext.go.jp

 

調査の概要

・対象

国立・公立・私立の幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼保連携型認定こども園に勤務する修了確認期限等が各年度の3月31日の教員(正規職員及び臨時職員)

※私立には、学校法人立・社会福祉法人立等を含む。

 

・調査時点

各年度の4月1日(修了確認期限等(3月31日)経過後)

※免許状失効者に関しては、同調査にて各年度の 6 月 1 日時点の状況も同時に確認

 

・主な調査項目

修了確認期限等が令和3年3月31日の現職教員数

更新講習修了確認申請者の修了確認状況

有効期間の更新申請者の認定状況

更新講習受講免除認定申請者の認定状況

修了確認期限延期申請者の認定状況

有効期間延長申請者の認定状況

申請期限までに必要な手続きを行わなかった者における免許状の失効状況

 

調査の結果

制度導入後最初の修了確認期限から2020年度末までの11ヵ年の集計結果は下表のとおりです。

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現職教員の修了確認期限等経過後の状況



まず、修了確認がなされた者(免除、延長除く。)についてみていきます。平均して毎年7万人程度が修了しており[v]、その割合は58.5%~85.5%(11ヵ年平均78.6%)と多くの現職教員が30時間の講習を受講し修了していることが分かります。

 

次に修了確認がなされなかった者についてみていきます。こちらが主に教員不足と関係してきます。

まず、修了確認がなされなかった者は①免許状が失効しなかった者(修了確認期限経過前に辞職した者)と②失効した者に分けられます。①は平均して200名程度、0.1%~0.6%(11ヵ年平均0.3%)とごくわずかです。何らかの理由により辞職した者ですので、これらの者は更新制を理由とした教員不足には直接的に関係していないと思われます。次に、②の修了確認がなされなかった者のうち失効した者は47人~1,716人(11ヵ年平均345人)で、その割合は0.1%~2.0%(11ヵ年平均0.4%)とこちらも非常に低い割合です。これがいわゆる「うっかり失効」の実態です。

 

失効した者の失効後の勤務状況(下表)をみていくと、「うっかり失効」の実態がさらに浮かび上がってきます。

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免許状失効後の勤務状況



2016年度以降では、2021年度を除き、免許状の再授与を受けず幼保連携型認定こども園において引き続き勤務する者の割合が一番高いことが分かります。これは幼保連携型認定こども園において保育教諭として勤務する場合、原則として幼稚園免許と保育士資格の両方を有する必要がありますが、2024年度末まではいずれか一方の免許又は資格を有していれば保育教諭として継続して勤務することができるためです。つまり、幼稚園免許が失効しても、保育士資格があれば引き続き勤務できるため、講習を受講しないという選択した者が多くいたことを表しています。引き続き勤務しているわけなので、教員不足には直接的には影響していません

 

また、修了確認期限等の日に任期が満了し退職する者も一定数いますが、任期満了に伴う退職ですので、これは「うっかり」ではなく意図して更新しないという選択をした者とみることができます。これらの者を再雇用したい場合には、免許状を更新していないので再雇用できず、そういった意味での教員不足(なり手不足)を招く恐れがありますが、あらかじめ退職が分かっていたことなので教員不足には影響しません

 

次に、普通免許状を必要としない職(管理職、事務職員等)として引き続き勤務する者ですが、校長、教頭等の管理職として引き続き勤務する場合には、これも教員不足には直接的に影響しないでしょう。

 

つまり、やむを得ず免許状を必要としない事務職員にジョブチェンジした場合、そして普通免許状の再授与を受けて再度教員として勤務する場合が「うっかり失効」の実態であり、更新制が引き起こした教員不足の実態(の一部)であると考えられます。全体比でみれば、ごくわずかな数であることが分かります。

 

まとめ

ここまで書いておきながら、上記は更新制が招いた教員不足の一側面にのみ着目したもので、あくまで現職教員の「うっかり失効」により引き続き勤務することができなくなった場合のみに焦点をあてています。

このほかにも、

  • 研修負荷、免許に有効期限が付されたことによる教員身分の不安定化等を理由とした教職志望学生の教職回避
  • 臨時教員のなり手不足(潜在教員の減少)
  • 定年間近の教員が更新のタイミングで早期退職する場合
  • 退職教員を再雇用したくとも、免許状の更新を行っておらず、教員として任用できない場合

…にも教員不足を引き起こす可能性があります。いずれについても十分なデータはないように思いますが、だからこそ、更新制が教員不足を招いたと短絡的に決め付けてしまうのは避けるべきだと思います。

 

導入からわずか10年余りで廃止になる更新制について、学校現場や教育行政、児童生徒に与えた影響を丁寧に検証することが今後必要であるように思います。

 

 

 

[i] 提出法律案はこちらから確認できます。

[ii] https://www.kyobun.co.jp/news/20220401_06/(教育新聞 2022年4月1日)

[iii] https://www.mext.go.jp/content/20220323-mxt_kyoikujinzai01-000021470-18.pdf(「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について関係資料)

[iv] 旧免許状所持者については修了確認期限、旧免許状所持者については有効期間の満了の日。

[v] 2020年3月末だけ対象教員が多いのは、更新講習の「2020年問題」と言われていたもので、従来は55歳、45歳、35歳で更新のタイミングが来るのですが、昭和59年4月2日以降に生まれた旧免許状所持者(35歳未満)もすべてこのグループに含まれていたため対象教員が多くなっています。