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どこかの大学職員のブログ

教員養成政策決定過程と教職課程履修内容への影響

 

はじめに

 以下では、主に直近の再課程認定以降の教員養成政策を分析の対象とし、決定過程及び教職課程履修内容への見直し要請といった影響を整理します。履修内容の見直し要請に焦点を絞る理由は、学生ひいては児童・生徒といった初等中等教育へ与える影響も大きく、さらに認定基準等の改正へも影響を与える起原だと考えるためです。

 

文部科学省による教員養成政策

再課程認定

 2015年12月の中央教育審議会答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について~学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて~(答申)」[i]では、英語、道徳、ICT等の新たな教育課題への対応や学校を取り巻く各種環境の変化を背景として、教員養成段階における養成内容を改革するよう提言がなされました。これを受け、2016年11月に教育職員免許法が改正され、「教科に関する科目」「教職に関する科目」と分かれていた科目区分が「教科及び教職に関する科目」に大括り化されました。また、2017年11月には教育職員免許法施行規則が改正され、現在の学校現場で必要とされる知識や技能を養成課程において獲得できるよう、「アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善」や「ICTを用いた指導法」といった内容が必修内容として明確化されるとともに、特別支援教育及び外国語教育(小学校課程のみ)が単位化されました。さらに、全国全ての大学の教職課程で共通的に修得すべき資質能力を示すとの趣旨の下、教職課程コアカリキュラム[ii]が策定されました。これらの改正に伴い、2019年度より新たな教職課程が開始することとなりましたが、すでに認定を受けている教職課程が2019年度以降も引き続き免許状授与の所要資格を得させるための課程として適当か否かを確認するため、再課程認定が行われました。1998年の教育職員免許法の改正以来、約20年ぶりの再課程認定となりました。

 

「令和の日本型学校教育」答申と具体化の動き

 再課程認定ほど大きくはないものの、2019年以降も教職課程の見直しは続きます。2019年4月には文部科学大臣から中央教育審議会に対し、「新しい時代の初等中等教育の在り方について」[iii]諮問がなされます。これを受け、同年5月に中央教育審議会初等中等教育分科会に「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」が設置され、教育課程部会及び教員養成部会等とも連携しながら、新時代に対応した義務教育の在り方、教師の在り方や教育環境等について検討が開始されました。13回にわたる議論の末、2020年10月に中間まとめが公表されます。さらに5回の特別部会、初等中等教育分科会、中央教育審議会総会による審議が行われ、2021年1月に「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」[iv]として答申が出されました。本答申では、総論部に「学校教育の質の向上に向けたICTの活用」や「ICTの活用に向けた教師の資質・能力の向上」が項目として立てられ、「大学における教員養成段階において、…情報活用能力を身に付けさせるためのICT活用指導力を養成することや、…教師のデータリテラシーの向上に向けた教育などの充実を図っていくことが求められる。」(p.31-32)との指摘がなされました。各論部においても、「また、教職課程においては学生がICT活用指導力を体系的に身に付けていく必要があるため、各教科の指導法におけるICTの活用について修得する前に、各教科に共通して修得すべきICT活用指導力を総論的に修得できるように新しく科目を設けることや、修得した内容を学校現場において生かすことができるよう実践の総まとめとして位置付けられている教職実践演習において模擬授業などのICTを活用した演習を行うこと等について検討し、教職課程全体を通じて速やかな制度改正等を行うことが必要である。」(p.87)と教師のICT活用指導力の向上方策について言及しています。これについては、2021年8月に教育職員免許法施行規則が改正され、従来「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)」としていた事項を「教育の方法及び技術」と「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」と分割し、後者を1単位以上修得するものとして必修化しました[v]。加えて、本答申では、「特別支援教育を担う教師の専門性向上」を課題に掲げ、「さらに、…特別支援学校の教師として押さえておくべき内容を精選するとともに、…共通的に修得すべき資質・能力を示したコアカリキュラムを策定することが必要である。」(p.67)とし、履修内容の精選、特別支援コアカリキュラムの策定を提言しました。2021年10月に「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議」が設置され、附置された「特別支援学校教諭の教職課程コアカリキュラムに関するワーキンググループ」においてコアカリキュラムの検討が進められています[vi]。特別支援の教職課程を設置する大学においては、本コアカリキュラムへの対応も視野に、養成カリキュラムを再編成する必要があるでしょう。

 このほか、本答申の提言に基づき、教職課程、教員免許制度に改正が加えられそうな事項については、過去記事で予想しています。

 

startingover-kyousyoku.hatenablog.com

 

 

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 2021年3月には「「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」[vii]文部科学大臣から諮問がなされました。これを受け、同月に「「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会」が設置され、「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について審議が開始されました。本記事執筆時点において6回の会合がもたれており、審議まとめ(案)[viii]が公表されています。教員免許更新制の発展的解消に係る内容が大半であり、ここには含まれていませんが、教職課程の見直しの方向性として、「理論と実践を往還した教職課程を実現するための教育実習の実施時期・実施方法の見直し等について、学生の状況に応じた弾力的な運用にも配慮しつつ、教育実習における学習指導員等としての活動の位置付け等も含め、検討を行う。」(2021年11月15日開催「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第5回)資料6-1)と方向性を示しています。これを具体化するため、2022年2月の中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会(第3回)・初等中等教育分科会教員養成部会(第128回)合同会議において、教育実習の実施時期・実施方法の見直しについてたたき台が提出されました[ix]。現時点では、方向性が示されているのみですが、今後の審議状況に注視する必要があります。

 

内閣(官房)による教員養成政策

 これら文部科学大臣による諮問に端を発する流れとは別に、養成機関、とりわけ先導的な教員養成を行う大学の指定制度について検討が進められています。2019年1月の教育再生実行会議第十一次提言中間報告において、「国は、教師のICT活用指導力の向上をはじめとするSociety5.0に対応した教員養成を先導するフラッグシップ大学(例えば教員養成の指定大学制度等)の創設を検討する。」(p.6)との提言がなされ、その在り方について検討を行うため、同年3月に「教員養成のフラッグシップ大学検討ワーキンググループ」が中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会に設置されます。教員養成フラッグシップ大学は、①先導的・革新的な教員養成プログラム・教職科目の研究・開発、②全国的な教員養成ネットワークの構築と成果の展開、③取組の検証を踏まえた教職課程に関する制度の改善への貢献等を役割として課されることとなります。2021年8月以降公募が行われ、評価・選定に基づき、2022年4月から取組みが開始されることとなりますが、指定を受けた大学は、学部段階において、教育職員免許法施行規則に定める「教科及び教職に関する科目」の一部に代えて、大学が設定するこれらに準ずる新たな科目を修得させることによって、教員免許状を取得させることが可能とされています。指定大学が教職課程の大胆な見直しや高度なカリキュラムマネジメントを通じて新たな教職課程のモデル開発を行えば、その成果はコアカリキュラムや教職課程の見直しに反映され、一般大学にも影響が及ぶこととなるため、指定大学の教員養成カリキュラム開発にも今後注視しておく必要がありそうです。

 

教員養成政策決定過程の概念図

 これら、文部科学省及び内閣(官房)による教員養成政策の決定過程を概念図にまとめると次のようになるかと思います。

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 諮問→答申→通知の政策形成が主ですが、一部において提言→諮問→答申→通知もみられます。この点、後者の政策形成プロセスが目立つ高等教育政策と異なり、教員養成政策においてはまだまだ文部科学省が政策立案機能を担っていると言ってもいいのかもしれません。

 

[i] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1365665.htm

[ii] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/126/houkoku/1398442.htm

[iii] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1415877.htm

[iv] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985_00002.htm

[v]加えて、「各教科の指導法(情報機器及び教材の活用を含む。)」は「各教科の指導法(情報通信技術の活用を含む。)」となり、教職実践演習においてICTの積極的な活用を図ること等が定められました。

[vi] 2022年2月24日開催の特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議(第5回)において、特別支援学校教諭免許状の教職課程コアカリキュラム(案)が示されています。

[vii] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1415877_00001.htm

[viii] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo16/siryo/1412213_00005.htm

[ix]併せて、介護等体験についても、「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」等の教職科目の学習と関連付けながら、特別支援教育への理解を深めることができるよう、特別支援学級等での体験機会を充実させていくこと等について見直しの方向性が示されています。