404 NOT FOUND

どこかの大学職員のブログ

「貸し借り問題」とは結局なんだったのか?

 

課程認定における科目開設の原則

 教職課程は「大学の学部,学科,課程…[略]…その他学則で定める組織(以下「学科等」という。)ごとに認定」(課程認定基準2(1))されるため,教職課程に開設する授業科目は,原則として,認定を受けようとする学科等ごとに準備する必要があり,また,当該科目は1つの教職課程でしか使用できないことになっています。大学設置基準に倣って,仮に教職課程の「自ら開設」原則としておきます。


科目開設についての例外規定

 この教職課程の「自ら開設」原則には例外規定があります。他学科等で開設されている科目を借りてくるなどして科目を共通化すれば,教職課程の質のさらなる向上を図ることもできることから,①他学科等において開設されている科目をあてる場合と,②科目を共通開設する場合には,例外が認められています。ここでは①の場合を取り上げます。

 課程認定基準4-3(2)及び4-4(2)に次のように規定されています。内容は基本的に同一なので,ここでは4-3(2)の中学校の教職課程を例に挙げます。

「教科に関する専門的事項」に開設する授業科目は,教職課程の科目内容の水準の維持・向上等を図るという観点から,…[略]…に規定する教科に関する専門的事項に関する科目の半数まで,認定を受けようとする学科等以外の学科等…[略]…(以下「他学科等」という。)で開設する授業科目(全学共通開設科目を含む。)をあてることができる。

 下の資料のようなイメージです。

f:id:starting_over00:20210410102830p:plain

(2020年12月18日開催 令和2年度教職課程認定等に関する事務担当者説明会資料 『資料3 教職課程認定基準等について』)

 資料の左側,中学校(国語)の認定を受けているC学科では,C学科で開設するcという科目のほか,A学科で開設する国文学の科目aや,B学科で開設する漢文学の科目bを教職課程の科目として借りています(「科目の半数」についての説明は省略。)。

 

「貸し借り問題」

 さて,2017年の再課程認定の際の事前相談において,この規定の解釈をめぐって問題が発生しました。具体的なイメージを持ってもらうため,以下に教養学科と人文学科の貸し借りの例を挙げます。

f:id:starting_over00:20210410103052p:plain

 教養学科,人文学科ともに中学校(国語)の課程認定を受けているとします。教養学科では「書道」に関する科目の充実を図るため,人文学科で開設する「書道(応用)」を先の基準4-3(2)を用いて借りることにしました。

 2017年以前の解釈では,人文学科が開設する「書道(応用)」は貸し先の教養学科でも貸し元の人文学科でも,どちらにおいても教職課程の科目としての性質をもつことができました。

 しかしながら2017年からこの解釈が変更され,「書道(応用)」が人文学科の教職課程の科目として認定を受けているのであれば,これを教養学科の教職課程の科目にあてることはできない,との見解が示されました。従来,貸し元でも貸し先でも教職課程の科目として使えていたのに,貸し元で課程認定を受けていると,貸し先で使用することができない…これがいわゆる「貸し借り問題」です。

 再課程認定時の事前相談において,多くの大学が指摘を受けたと聞きます。しかしながら,再課程認定はすでに認定を受けていることを前提に再審査が行われたため,ただちに改善することは求められず,当該学科等のカリキュラムを今後見直す機会があればその際に改善していけばよいとの指摘がなされていたようです。

 

何が問題だったのか

 なぜ「貸し借り問題」が大きな波紋を呼んだのでしょうか。勝野(2019)*1は次の3点を問題点として挙げています,1点目は,解釈変更の根拠の希薄さです。「貸し元で教職課程の科目になっているとあてることはできない」という解釈は,課程認定基準から当然に導き出すには無理がありますが,この点について納得できるような根拠は示されておりません。

 2点目は,文科省の申請大学への対応が一律ではなかった点です。日本教師教育学会が2018年に実施したアンケート*2によれば,「貸し借り問題」が生じたと回答した18大学のうち,事前相談の際に指摘があった大学は12大学(66.7%),なかった大学は6大学(33.3%)だそうです。このように指摘内容に一貫性がなかったことも問題であったと指摘しています。

 3点目として,課程認定基準の規定が曖昧であることに由来しますが,事前相談等において課程認定基準を超える新たな基準*3が示された点です。公表されている基準以上の内容をあれもこれもと上乗せすることは透明性の観点で問題があると指摘します。


さいごに

 一度変更した解釈を再度変更することはないでしょうから,今後新規に申請される場合には,基準4-3(2)及び4-4(2)には留意しましょう。また,再課程認定の際に対処できなかった学科等についても,事後的な質保証の観点から,変更届で「貸し借り問題」は解消しておいた方がベターでしょう。

*1:・勝野正章(2019).課程認定行政の問題点と改革の方向性,日本教師教育学会,28,42-50.

*2:・樋口直宏(2019).大学教育と教職課程ー「教職課程の再課程認定についての教師教育学会会員アンケート」調査結果―,日本教師教育学会年報,28,152-153.

*3:・「指導・助言基準」ともいうべき基準やその課題については,若井彌一(1979)教員養成課程認定行政の検討 : その指導・助言的性格の意義と問題点,日本教行政学会年報,5,177-193. に詳しい。