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どこかの大学職員のブログ

教育実習の早期化・複線化による懸念―学生が獲得する資質能力に関して―

 

教育実習の見直し

2022年2月の中教審教員養成部会において、突如として「教育実習の実施時期・実施方法の見直し」が示されました。部会資料では、現状と検討の方向性が次のように示されました(下線は筆者、以下同じ)。

 

【資料2-2】教職課程の見直しに係る検討の方向性と主な論点

現状

一般に、教員養成大学・学部においては大学3年後期に、一般大学・学部においては大学4年前期に教育実習が実施されており、学校現場での教育実践を経験する機会は主に教職課程の終盤に設けられている状況にあるが、教育実習の履修時期が民間の採用活動と重なる等の課題もあり、教職課程の履修を断念する傾向が顕著に見られる例も出てきている(スライド11)。

 

検討の方向性

こうした点も踏まえ、教職課程において「新たな教師の学びの姿」を実現するための基礎的な資質・能力の育成を図る観点から、教職課程の終盤に長期間まとめて教育実習を履修するこれまでの履修スタイルから、学校体験活動を効果的に活用して学校現場での教育実践を段階的に経験する学びへと転換を図ることとしてはどうか(スライド21)。

 

現状と検討の方向性のつじつまが合っていないような印象です。おそらく、民間の採用活動との重複を避けることで教員のなり手を確保し教員不足を解消したいというのが本音で、学校現場での教育実践を段階的に経験する学びへの転換は建前なのでしょう。

 

中教審での議論が進められ、同年9月の「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第8回)・基本問題小委員会(第8回) 合同会議で「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について(中間まとめ)(案)」が提示されました。教育実習については、以下のように提言されています。

 

こうした状況を踏まえ、これまで、全ての学生が一律に、教職課程の終盤に教育実習を履修する形式を改め、それぞれの学生の状況に応じた柔軟な履修形式が認められるべきである。具体的には、短期集中型の従来の履修スタイルに加え、通年で決まった曜日などに実施する教育実習や、早い段階から学校体験活動を経験し、教育実習の一部と代替する方法なども想定される(p.29)。

 

「教育実習の実施時期・実施方法の見直し」は「教育実習の早期化・複線化」として具体化され提言されました。

 

教育実習の早期化による懸念

現状の教育実習実施時期についての大学横断的な調査結果は見つけられませんでしたが、多くの大学では3年次に基礎実習、4年次に応用実習と段階的に実習を実施しているのではないかと思います。「早期化」といっても、提言を見る限りはこれを2年次と3年次に早めるような改革ということではなく、「早い段階から学校体験活動を経験させ」、これを「教育実習の一部と代替」する方法を想定しているようです。

 

学校体験活動は「学校における授業、部活動等の教育活動その他の校務に関する補助又は幼児、児童若しくは生徒に対して学校の授業の終了後若しくは休業日において学校その他適切な施設を利用して行う学習その他の活動に関する補助を体験する活動であつて教育実習以外のもの」(免許法施行規則2条1項表備考8号)と定義されています。2017年の免許施行規則の改正以降、文科省は学校体験活動(学校インターンシップ)の導入・実施を推し進めています。あくまでも「補助を体験する活動」であり、教育実習における実施内容とは区別されています。

 

小学校や中学校の免許状を取得しようとする場合、教育実習として5単位の修得が必要ですが、このうち2単位まで学校体験活動の単位を含めることができます(同上)。2単位分を「補助を体験する活動」にあてた場合、残りの3単位分の教育実習の内容を工夫しないと、養成段階で身につけさせるべき教科指導力や児童・生徒指導力、学級経営力が身につかないのではないかという気もします。

 

教育実習の複線化による懸念

複線化でイメージするのは、福井大学教職大学院の「学校拠点校方式(拠点校方式)」[1]上越教育大学教職大学院の「学校支援プロジェクト」[2]です。

これらは学校における実習がカリキュラムの中心にある教職大学院だからこそできる取組であり、学部段階で、とりわけ非教員養成系学部・学科で実施することはおそらく不可能です。提言で例示されたような「通年で決まった曜日などに実施する」といっても、丸一日学校に赴くのは学生に「全休日」がないと不可能で、非教員養成系学部で教職課程を履修する場合や他の資格取得も視野に入れている場合には実施が難しいのではないかと思います。現実的には水曜の午後だけなどの対応になってしまうことが懸念されます。

 

そのような教育実習の形態となった場合、次のことが懸念されます。

 

  • 受入校にとって単なる「お客様」にならないか

我々の職場(業務)もそうですが、水曜午後だけ当課にやってくる職員がいたとしても、どんな業務をお願いしようか、どんな人材育成プランを立てようか困りますよね。とりあえず授業見学してくださいといったような「お客様」的対応にならないでしょうか。拠点校方式を真似た教育実習運営を導入したものの、このような状況になり困っているという教職大学院があるとも聞いています。

 

  • 子どもたちの姿をつぶさに見取れるか

子どもと話すこと、遊ぶこと、他児とのかかわりの様子や授業中の発言、ノートの記録等から子ども観をつかむことは児童生徒指導、学習指導の両面において重要ですが、その機会を十分に確保できるでしょうか。時間を重ねれば可能でしょうが、週に1度程度のかかわりでは子どもたちとの信頼関係を構築するのにかなり時間を要するのではないかと思います。

 

  • 学級経営の視点を身に付けられるか

従来の短期集中型の教育実習では、教師の1日ないし1ヶ月の業務を観察、体験することができます。特定曜日のみの実習では、その全貌をつかむことはできません。実習生のうまくいった1回の授業実践が、その日のために見えないところで子どもの学習意欲を高め、学習環境を整えてくれた学級担任の学級経営の賜物であるということに気がつけるでしょうか。

 

「短期集中型の従来の履修スタイルに加え」との提言ですので、すべての実習を通年特定曜日型で実施することを考えているわけではないでしょうが、両方のメリットを抽出したハイブリッド型の教育実習パッケージを検討していく必要がありそうです。

 

教職課程運営実務への影響も…

早期化・複線化するとなれば、教職カリキュラムの改編、教育実習受講資格の見直し、教育委員会や実習校との連携…等の教職課程の運営にも大きな影響が生じます。そのあたりは、別の記事に書いてみたいと思います。

 

 

 

[1] 松木健一(2013)学校拠点方式の教職大学院とは何か : 学校ベースの実践コミュニティの創造を目指す福井大学の取組を振り返る、教師教育研究、6、3-18。

[2] 岩﨑浩(2020)上越教育大学教職大学院における数学教育学研究の特徴、日本教科教育学会誌、42(4)、89-93。