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どこかの大学職員のブログ

実地視察報告書にみる教職課程の質保証への示唆―教職課程の実施・指導体制 編―

 

はじめに

前回の記事では、教職課程認定大学実地視察(以下、実地視察)の毎年の実施数と地域に着目して直近10年間のデータを整理しました。

 

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今回は、実地視察後に公表される報告書に着目し、視察委員の評価コメントから各大学が教職課程の質保証に取り組む際のヒントを探っていきたいと思います。まずは、「教職課程の実施・指導体制(全学組織等)」の観点です。

なお、実地視察報告書の評価コメントは、認証評価結果と異なり、「改善課題」や「是正勧告」といった区分はありませんので、評価コメントの表現(「…評価できる」「…期待する」「…していただきたい」「見直すこと」等)を頼りに長所として評価されているのか、改善課題として指摘されているのかを分類しました。

 

望ましい実施・指導体制

望ましい実施・指導体制として評価されていた大学に共通の要素としては、①教員養成の理念・目的が明確化されていること、②それを具体化するための教育課程、教育内容が整備されていること、③同じく指導体制(教員組織)が整備されていること、④これにより、全学的に一体となって教員養成に取り組んでいること、の4点が見えてきました。

教職課程の認定単位は、学則で入学定員が定められる最小単位の組織(=学科等)ですが、認定後の運営においては、学部をも飛び越え、全学的な運営体制が求められていることが分かります。

長所が述べられた評価コメントのうち、他大学の参考になるようなグッドプラクティス事例をいくつか紹介します。まず、全学的に教職課程を統括する組織(以下、統括組織)の運営に事務職員が参加している事例です(高崎健康福祉大学)。おそらく、各学部に事務局が紐付いており、そこから統括組織の運営会議に参加し、教職カリキュラムの編成や各学部学科DPとの整合性チェック等に取り組んでいるものと思います。次に、FDを充実させている事例です(秀明大学)。教職課程に限った話ではなさそうですが、授業評価を学期のはやい段階に1回、それを受けて授業改善を行ったあとにもう1回実施したり、教員同士授業参観したりする取組が長所として挙げられています。最後に、地域の学校と連携を図っている事例です(都留文科大学)。理論と実践の往還が評価されているので、大学で理論を学び、現場で実践し、大学で実践を省察するというサイクルが整備されているものと思います。

 

改善を要する実施・指導体制

統括組織は整備から機能強化へ

認証評価の「改善課題」に準ずるような指摘で一番多いのは次の指摘です。

教員養成に対する理念・構想を示しているが、それを具現化するための教職課程に対する全学的な組織、教育課程及び教員組織をより一層充実させるように努めていただきたい。

統括組織の設置については、2015年の資質能力向上答申において設置が努力義務とされ、2020年の基準WG報告により義務化(必置)とされました。評価コメントの変遷をみていくと、努力義務化前は「全学的組織を構築すること」「全学的組織の体制整備を進めること」とのコメントが多いですが、近年では「一層充実させること」「強化を図っていただきたい」とのコメントにシフトしています。つまり、統括組織については、整備から機能強化の段階へとステージが変わったことが分かります。

 

なんのための統括組織か?

それでは、なぜ統括組織の設置・機能強化が必要なのでしょうか?評価コメントから、統括組織の役割を探っていきたいと思います。まずは点検・評価の観点です。

教職に関する全学組織で定められた教育課程の編成方針の下、その内容の点検・検討ができるような体制・仕組みの構築が必要であるため、現在の教職支援センターの体制強化を図っていただきたい。(国立T大学)

全学のCP、さらに教職課程全体のCP、各学科の教職カリキュラムとこの3層で点検・評価、改善のサイクルをまわすには、統括組織のように、縦と横をつなげられる組織が必要という理屈かと思います。

 

次に教育内容の標準性確保の観点です。

教職課程は、教員免許状という資格を授与するための課程であることに鑑み、授業内容の扱いについて、各学部・学科に完全に委ねるのではなく、教職に関する全学組織で定められた教育課程の編成方針のもと、その内容の点検・検討ができるような体制・仕組みの構築が必要であるため、今後検討いただきたい。(私立K大学)

教授の自由は尊重しなければなりませんが、教職課程では、資格課程としての標準性も考慮しなければならないので、各学部・学科・教員の授業内容を調整しなければならないケースは起こり得ます。特に、一般的・包括的内容を含む授業科目や学科間で科目の貸し借りを行っている場合などには、統括組織が仲介し授業内容を調整することが法令適合性、質保証の観点で重要になります。

 

最後に教科専門教員の参画促進の観点です。

教職課程は、「教科に関する科目」と「教職に関する科目」によって編成されるものであり、両科目を担当する教員が協力して教職課程を運営していくことが重要である。現行においては、教職課程の運営について、「教職課程に関する科目」を担当する一部の専任教員に依拠しているように見受けられる。今後、各学科に所属する「教科に関する科目」を担当する専任教員も教職課程の運営に積極的に参加する様な仕組みを構築し、創設の準備中である教職センターが全学的な組織として機能することを期待する。(公立K大学)

「教科に関する科目」においては、「教科内容学」「教科内容構成」といった、単に専門学部の専門科目を教授するのではなく、それを学校現場での指導場面に必要な内容へと再構成し教授することが求められています。そのためには、「教科に関する科目」担当教員の教員養成への理解・参画が欠かせません。統括組織には、そのためのハブとしての役割も期待されているようです。

 

認定基準違反事例

評価コメントからは、認定後の質保証が機能していない大学の事例も窺い知れます。

  • X課程の小一種免とY課程の幼一種免、Z課程の小一種免と中高一種免において、専任教員が重複している。教職課程認定基準に抵触しているため、速やかに是正すること。(私立B大学)
  • 教員養成を主たる目的とする学科等に置いておくことができるとされている幼稚園及び小学校の教職課程について、貴学の履修規程及び教員免許状取得状況から、目的養成とはなっていない状況が確認された。(国立O大学)
  • 通信教育部については、学生数に対して専任教員が非常に不足しており、必要な教育体制が整えられていない上に、専門学校との連携による併修の授業に関して、連携している専門学校や担当教員が明確でないなど、質の担保について極めて疑問がある。(私立K短期大学)
  • 教育職員免許法施行規則第6条第1項表に定める「含めることが必要な事項」が含まれていない授業が多数存在するほか、学則に位置付けられていない教職課程に係る授業科目が開設されていないなど、教員養成の理念を具現化するための体制が整備されているとは言い難い。(私立Y大学)

 

気になった評価コメント

2012-2015年度にかけて、「学長のリーダーシップのもと、…していただきたい」との表現が登場してきます。時期的に大学のガバナンス改革の審議まとめの時期と一致します。ただし、同じ改善課題を抱える大学でも、学長のリーダーシップに触れられる大学とそうではない大学がみられるため、教員養成部会としての総意というよりは視察委員の主張が特定の大学のみに色濃く反映された結果だと見受けられます。

2011-2013年度にかけては、教員就職者が少ない大学に対し、「●学科の教職課程の在り方について、大学として検討すること」と、取下げ勧告とも捉えられるような踏み込んだコメントも見られます。

このほか、近年では、「事務組織の充実を図っていただきたい」等、事務体制にも言及するコメントも見られました。

 

さいごに

実施・指導体制としては、全学的に一体となって教職課程の運営に取り組むことが重要なようです。そのためには、統括組織が「仏造って魂込めず」とならないよう、教育課程の編成や点検・評価、教科専門と教職専門の架橋、FD/SDの実施等に学部の垣根を越えて取り組むことが求められています。