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どこかの大学職員のブログ

「カテイニンテイ」という用語をめぐる一考察

 

はじめに

業務上、学内の委員会等に提出する格式ばった(?)文書を作成する際、「カテイニンテイ」のことを「教職課程認定」と表記すべきか「課程認定」とすべきか悩むことが多々あります。

これに「申請」を付ける場合には、「教職課程認定申請」か「課程認定申請」か?「審査」、「行政」を付ける場合は?そもそも、下につく語によって上の語は使い分ける必要があるのか?…と更なる疑問に出くわします。

自分自身の頭の整理のために、「カテイニンテイ」をめぐる表現について、行政文書や学術書から整理してみました。

 

制度そのものは「教職課程認定」か?「課程認定」か?

申請→認定という制度そのものを指す場合にはどちらがより適切でしょうか。私の所有する教育法学の概説書では「課程認定」が用いられています。

「課程認定は、文部科学省が定める審査基準・内規に基づいて、法令上の免許基準と各大学の履修基準と方法および教員組織の適否を審査するもの…。」(p.158)

出典:平原春好・室井修・土屋基規『現代教育法概説 改訂版』(学陽書房、2001)

 

教育史(教員養成史)の重要文献である海後編(1971)、山田(1993)でも「課程認定」が用いられています。

「しかし、文部省は一九五三年度から「課程認定」を制度化した。これはどの大学学部が教職課程を設置するに充分な条件を備えているかを、直接文部大臣が認定をする制度であって、…。」(p.129)

出典:海後宗臣(編)『教員養成 戦後日本の教育改革8』(東京大学出版会、1971)

 

「この法改正によって、免許状授与の出来る課程を認定する制度を設けたこと、課程認定を受けることが出来るのは、大学の正規の課程、大学院、専攻科のほかに文部大臣が認めた課程を含むこと等を定めた。これによって、教員養成に関する単位履修の出来る大学等の課程を認定する課程認定制度が成立したのである。」(p.353-354)

出典:山田昇『戦後日本教員養成史研究』(風間書房、1993)

 

一方で、教師教育の観点からは、日本教師教育学会が25周年を記念して発行した書籍において「教職課程認定」が用いられています。

「教職課程認定(以下、課程認定)とは、教育機関等(大学が原則)が教育職員免許状(以下、免許状)の取得を希望する学生に、免許状を授与されるために必要な所要資格を得させるための教職課程を開設することを文部科学省に申請し、文部科学省が審議会(審査委員会)の審査を経て認定を与える法的手続きである。」(p.46)

出典:日本教師教育学会(編)『教師教育研究ハンドブック』(学文社、2017)

「第10章 教職課程認定」としてページを割き、全体的に表記に揺れはみられますが、「教職課程認定」を用いており、「課程認定」は略記として用いられています。

 

所管庁である文部科学省がどちらを用いるかというと、『手引き』において、制度の定義は曖昧ですが、「課程認定制度の概要」という見出しを用いています。

「幼稚園、小学校、中学校…の免許状の授与を受けるためには、教育職員免許法別表第1…の規定により、所定の基礎資格を備え、かつ、所定の単位を修得する必要がある。(別表略)この場合、大学において修得することを要する単位は、原則として、文部科学大臣が免許状の授与の所要資格を得させるために適当と認める課程において修得したものでなければならないこととしている(別表第1備考第5号イ)。この、文部科学大臣の認定を「課程認定」と呼んでおり、…。」(p.1)

令和5年度開設用手引き

所管庁や教員養成史の専門書での用例を見る限り、「課程認定(制度)」とするのが有力であるように思います。

 

「カテイニンテイ」+「基準」の場合

「カテイニンテイ」の審査基準という意で用いる場合には、「教職課程認定基準(平成13年7月19日教員養成部会決定)」が定められていることから、「教職課程認定基準」が一般的に用いられます。

この基準は、教職課程の認定を受けるのに必要な最低の基準とする。

教職課程認定基準1(2)

 

「カテイニンテイ」+「申請」の場合

大学が教職課程を設置するための文部科学大臣あての申請をいう場合は、「教職課程認定申請」でしょうか。単に「課程認定申請」でしょうか。文部科学省総合教育政策局教育人材政策課が発行する『手引き』の正式名称は『教職課程認定申請の手引き(教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程認定申請の手引き)』です。ここでは、「教職課程認定申請」も「課程認定申請」も用いられており、はっきりしません。

 

もう一点、文部科学省が毎年度実施する事務担当者向け説明会は「令和○年度教職課程認定申請に関する事務担当者説明会」とされており、こちらでは「教職課程認定申請」が使用されています。

いずれにしろはっきりしません。

 

「カテイニンテイ」+「審査」の場合

大学の申請に基づいて中央教育審議会において行う審査をいう場合には、「教職課程認定審査の確認事項(平成13年7月19日課程認定委員会決定)」が定められていることから、「教職課程認定審査」の用例は確認できますが、これが適切かどうかは分かりません。

「教職課程認定基準(平成13年7月19日教員養成部会決定)(以下「基準」という。)1(4)に定める教職課程認定審査における確認事項については、以下のとおりとする。」

教職課程認定審査の確認事項 前文

 

「カテイニンテイ」+「行政」の場合

事前相談や実地視察も含めた文部科学省の認定過程全般や政策そのものを指す場合はどうでしょうか。先行研究はほぼありませんが代表的な若井(1979)、勝野(2019)ではいずれも「課程認定行政」を用いています[1]

「現在、高等教育行政の一環として展開されている教員養成のための課程認定行政について、その作用的性質を検討し、そこにみられる指導・助言的性格の意義を確認するとともに、指導・助言的性格との関連において生起してきたとみられる問題点を指摘し、課程認定行政の側面から、指導・助言行政の課題を提起しようとするものである。」

出典:若井彌一「教員養成課程認定行政の検討―その指導・助言的性格の意義と問題点―」『日本教行政学会年報』第5号、1979年、177-193頁。

 

「現在の教職課程認定に係る行政(以下、「課程認定行政」)は、公正(平等)・透明性の点で課題があると言える。」

出典:勝野正章「課程認定行政の問題点と改革の方向性」『日本教師教育学会年報』第28号、2019年、42-49頁。

 

「再課程認定」

ところで、免許法等の大改正により、すでに認定を受けている課程が法改正後も引き続き課程認定を受ける場合には「再課程認定」の手続きが必要となりますが、これは「再課程認定」といわれ、「再教職課程認定」とはいわれません。このことからも推察するに、制度そのものを指す場合にはやはり「課程認定」とするのが適切ではないかと考えられます。

 

まとめ

調べてみても、「これが正確な表記」というものは分かりませんでしたが、次のように整理できるかと思います。

  • 制度そのものまたは+「制度」で用いる場合 → 「教職課程認定(制度)」「課程認定(制度)」ともに用例は確認できるが、後者が適切か。
  • +「基準」で用いる場合 → 「教職課程認定基準」
  • +「申請」で用いる場合 → 「教職課程認定申請」「課程認定申請」ともに用例あり。
  • +「審査」で用いる場合 → 「教職課程認定審査」の用例あり。
  • +「行政」で用いる場合 → 「課程認定行政」

とはいえ、制度そのものが「課程認定」が有力だとすれば、「基準」、「審査」をつける場合も「課程認定基準」「課程認定審査」が自然であるように思います。ただ、こればかりは教員養成部会決定または課程認定委員会決定として「教職課程認定基準」「教職課程認定審査」が用いられているので、統一しがたいところです。

結論として、非常に混乱した状態にあることは分かりました。用語使用における混乱の弊害は今のところみられませんが、この制度を研究対象として据える場合には用語の概念、定義、使用方法については整理していく必要があるように思います。

 

 

 

[1] 若井はタイトルでは「教員養成課程認定行政」を用いていますが、本文中では「課程認定行政」を用いています。