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どこかの大学職員のブログ

教職課程認定基準の基準性―大学設置基準との比較から―

 

教職課程認定基準の「基準性」とは

教職課程認定基準(以下、「認定基準」)は、輩出する教員の質を維持・向上する観点から、教職課程の認定を受けようとする大学等が満たすべき基準として、文部科学省教育職員免許法等の規定に基づき教育課程、教員組織等を定めているものです。この認定基準には、認定を受けようとする学校種(中高においては教科)ごとに、開設が必要な科目や配置しなければならない教員数が定められており、「教職課程の認定を受けるのに必要な最低の基準」(認定基準1(2))であることが示されています。したがって、各大学が教職課程を開設しようとする場合には、この基準を必ず満たす必要があります。

当然のことですが、認定基準はこのような「基準性」を有しています。

 

認定基準がいかにして「基準性」を発生させうるかというと、教員養成部会で決定された内容が、文部科学省課程認定担当課が毎年度発行する『教職課程認定申請の手引き(教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程認定申請の手引き)』(以下、「手引き」)に「審査基準等」として収録され、各大学に通知するという方法がとられています。たったこれだけです。

このような「基準性」発生の手続きは許認可行政にかかる手続きとして適正なのでしょうか?改善すべき課題はないでしょうか?

 

教職課程認定基準の法令体系における位置づけ

上記を検討する前に、まずは認定基準の位置づけを確認します。

教員養成教育に関する法令には、法律として教育職員免許法があります。同法では、第5条に授与の手続きを定め、別表第1備考第5号イにおいて、政令(=教育職員免許法施行令)で定める審議会等(=中央教育審議会)に諮問し審査を行う旨が規定されています。法律の委任を受けた省令である教育職員免許法施行規則では、第20条に認定の手続きを定め、第21条に認定の申請に際し申請書に記載すべき事項を定めています。詳細は割愛しますが、その審査は、国家行政組織法中央教育審議会令→中央教育審議会運営規則→初等中等教育分科会教員養成部会運営規則に基づき、教員養成部会の付託を受けた課程認定委員会において行われています。具体的な審査基準は、審査を行う組織の審査事務に関する内規である「教員養成部会決定」で定められており、これが認定基準です。体系を図示すると次のようになります。

教職課程認定基準の法令体系における位置づけ

 

教職課程認定基準の「基準性」発生プロセスの問題点

ごく当たり前に受け入れている上記のプロセスですが、以下の点において問題があると考えます。

第一に、誰が認定基準の改正に関与しているのか分からない問題です。先述のとおり、認定基準は「教員養成部会決定」により定められますが、実際には、具体の審議・検討は、教員養成部会の下に置かれた課程認定委員会において行われています。課程認定委員会は、委員名簿が公開されておらず、どのような専門的見地を有した者で構成されているか知るすべがありません。具体的には、認定基準の審議・検討にかかる委員の網羅性(各学校種・教科・科目区分の専門家が確保できているのか)、見地の多様性(養成段階のみならず採用・研修を担う者が含まれているのか)、学問分野の多様性(教師教育関係者のみならず法学者や行政学者が含まれているのか)、所属機関の基本属性の公平性(委員の所属機関の設置形態、立地に偏りがないのか)等に対応した委員構成の下、適切な審議・検討が行われているか確認するすべをもちません。

第二に、認定基準の改正審議経過が不透明である問題です。課程認定委員会は開催通知が一般に公開されないほか、傍聴もできず、議事録も公開されません。改正の趣旨や要点は事務連絡等により捕捉できますが、誰がどのような意見を出し、それらがどう調整され反映されたのか把握することができず、後に審議経過を検証することができません。

第三に、実際に教職課程運営を担う大学教職員の声を反映する機会がない問題です。改正は、課程認定委員会で練られた案が教員養成部会で追認されると、当該年度あるいは次年度発行の『手引き』に収録され、各大学に周知されることとなります。この間に、我々が実際の現場で教職課程を運用する観点から、問題点や改善案を表明する機会はありません。そのため、全学教職センターに所属する教員を学科等の専任教員としてカウントできないといった現場の実態にそぐわない規定が残り続けることとなっています。

 

大学設置基準の「基準性」発生プロセスとの比較から

教職課程の認定と類似する概念に大学等の設置認可があります。大学等の設置認可は、大学設置基準に基づき行われますが、認定基準との「基準性」発生プロセスに違いはあるでしょうか。

第一に、その法的位置づけの違いです。大学設置基準は学校教育法の規定に基づいた省令である一方、認定基準は法的性格をもたない単なる審査事務を定めた内規です。省令は法令ですが、内規は法令ではありません。

第二に、審議経過の公開性の違いです。現在、大学設置基準の改正は質保証システム部会の審議まとめに基づき、大学分科会において行われていますが、いずれの会議体も委員が公表されており、傍聴も可能で、議事録も会終了後に文科省ホームページに公開されます。認定基準の改正を所管する課程認定委員会は上で指摘したとおり、委員も議事録も非公表です。

第三に、その周知方法です。改正等があった場合、大学設置基準は『官報』に掲載されるほか、関係する規則も告示(法律等に基づき、指定、決定などの処分その他の事項を外部に公示する行為[i])がなされます。告示は、「他の法令の効力に劣らないとされて」います[ii]。一方、認定基準は『手引き』に「審査基準等」として掲載されるのみです。

第四に、パブリック・コメント制度の適用有無です。パブリック・コメントとは、「国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的」とした制度[iii]です。例えば、ジョイント・ディグリー制度の要件緩和を内容とした大学設置基準の改正の際には、改正省令や制度内容に関して9件の意見が寄せられています。このように、大学設置基準の改正に際し、意見を述べることが可能になっています。一方、認定基準の改正に関しては、先述したとおり、現場で教職課程運営にあたる大学関係者が意見を述べる機会はありません。

 

問題点にいかに対応するか

勝野(2019)[iv]は、同じような問題意識の下、「必ずしも、認定基準の省令・告示化…を積極的に意図するものではない」と断った上で、「教職課程認定基準の作成・変更についても、同様に大学・学会関係者に参加・意見表明の機会が与えられるべきであるし、教育を受ける権利を保障する観点から、学生の意見表明機会の制度化も考えられるべきであろう」と主張しています。

認定基準が、学生視点の「履修ベース」よりも大学視点の「開設ベース」に拠って立っていることを踏まえると、学生が意見を述べることは難しいようにも思いますが、意見表明の機会の確保という点には強く賛同します。パブリック・コメント制度は、政令・府省令等の法令のみならず、審査基準(申請に対して許可等をするかどうかを法令の規定に従って判断するために必要な具体的な基準)もその対象に含まれていますので、制度上は当該制度を利用することが可能なはずです。加えて、課程認定行政の透明性をさらに向上させるために、委員名簿及び議事録(基準改正に関する部分のみでも)の公表もぜひとも検討していただきたいと思います。

 

 

[i] 株式会社ぎょうせい法制執務研究会『前訂 図解 法制執務入門』ぎょうせい、2013年、13頁。

[ii] 同上。

[iii]パブリック・コメント制度について」https://public-comment.e-gov.go.jp/contents/about-public-comment/(確認2022-6-24)

[iv] 勝野正章「課程認定行政の問題点と改革の方向性」『日本教師教育学会年報』第28号、2019年、42-49頁。