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どこかの大学職員のブログ

教職課程の設置申請は増えているのか?

 

目的

課程認定にかかわるアクターは申請側(大学)と審査側(中教審)に大別されます。後者に関して、個別大学の審査過程というミクロな視点では『教師教育研究』や『阪神教協リポート』に事例の蓄積があります。許認可行政としての性格というマクロな視点でも木内(2013)や勝野(2019)といった先行研究[1]があります。一方、前者(申請側)に関して、個別教職課程の理念や養成する教員像を主題とした事例報告も見られますが、マクロな視点(例えば、教員養成政策の教職課程開設行動への影響)での申請動向に関する言及は多くはありません[2]。そこで、基礎データとしてここ10年程度の申請動向を整理しました。

 

方法

申請動向は、中教審教員養成部会の資料「令和(平成)○年度課程認定申請大学数について」をもとに整理しました。毎年度、大臣から中教審に諮問がなされる時期に、事務局が前年度の申請動向を集計してくれています。過去の資料は国立国会図書館インターネット資料収集保存事業を用いて収集しました。

集計単位は「申請課程数」としています[3]。つまり、認定を受けようとする免許種数とイコールですが、特別支援の課程を申請した場合はその領域数にかかわらず1件として計上されています。

 

申請課程数の推移

申請区分別

まず、申請区分別(大学/大学院)での集計です。短期大学及び大学の通信課程、専攻科、大学院の通信課程は、さして申請数が多くないため除いています。

図1 申請課程数の推移(申請区分別)

 

H21に審査主体である教員養成部会は学科等の目的・性格と免許状との相当関係に関する問題点を提起し、H23申請からは「学科等の目的・性格と免許状との相当関係に関する審査基準」が新たに適用されます。この問題提起がなされるまでは、500以上だった申請数が、近年では200前後となっていることから、申請抑制策として機能した可能性が高いことが分かります。ただし、H20以前の申請数もせめて5ヵ年程度のデータは把握したうえでみていく必要はありそうです。なお、上記審査基準の新設により審査の厳格化が進行したとの主張もありますが、それは今回の分析とは別問題で、解明するためには申請数に対する認定数あるいは取り下げ数をみていく必要があると思います。

大学院に関しては、H27に大幅に申請数が増加していますが、これは教職大学院設置による教育学研究科の再編によるもの文科省事務局による分析がなされています。また、近年、大学院の申請数が多いのは、中央教育審議会「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」(2012年8月)、教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議「大学院段階の教員養成の改革と充実等について」(2013年10月)、文部科学省国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)」(2015年6月)により、教職大学院への一本化(教育学研究科修士課程の改組)がなおも進行しており、改組に伴う課程認定を要しているからと考えられます。

 

申請区分・設置形態別

次に、これをさらに設置形態別にみていきます。図2では、実線が大学(学部)、破線が大学院を表しています。

図2 申請課程数の推移(申請区分・設置形態別)

 

公立では、学部も大学院もほぼ横ばいで大きな増減はありません。大学(私立)は、かつては減少傾向にありましたが、近年は毎年100前後で横ばいです。H21-H23の期間をみると、先に述べた相当関係の問題提起による申請抑制は、私立大学に対し強く作用したことがうかがえます。また、大学院(国立)の形状は図1の大学院のそれとほぼ同一であり、つまり、大学院全体の申請推移は国立の大学院の申請推移に規定されるといえそうです。

 

学校種別

次に、課程の学校種別にみていきます。学校種別の申請数について、H24以前もデータはありますが、H25以降の集計方法と異なるため、ここではH25以降のみを対象とします。

図3 申請課程数の推移(学校種別)

 

幼稚園と小学校は毎年20前後となっています。中学校、高等学校は教員養成カリキュラムが同一の教科が多く、同時に申請するケースが多いのでグラフの形状が似通っています。養護教諭栄養教諭は毎年10前後です。特別支援がR1に前年度比3倍に増加していますが、その理由に思い当たる節はありません…。心当たりのある方はぜひご教示ください。

 

中学校・教科別

次に、学校種のうち中学校、高等学校について、教科別にみていきます。H24以前は教科別の申請数は公表されていないため、H25以降のみです。まずは中学校です。

図4 申請課程数の推移(中学校・教科別)

 

先に述べたH27前後の増減を除き、特定教科での目立った増減はありませんが、毎年理科の申請が多いことが分かります。

 

高等学校・教科別

最後に、高等学校です。

図5 申請課程数の推移(高等学校・教科別)

 

教科が多いのでグラフが見づらいですね…。中学校と同様に理科の申請が多いですが、中学校の教科にはない工業の申請も多いことがわかります。

 

さいごに

基礎データとして整理してみました。相当関係基準の新設による申請抑制効果は他の要素も加味して分析すると面白そうです。

 

 

[1] 本記事にでてくる論文は、いずれも過去の記事で言及しているので、参考・引用文献一覧は割愛します。

[2] 再課程認定というイレギュラーなイベントが発生した際の影響については、松宮ほか(2022)などの先行研究があります。

[3] H26以降は「申請学科等数」の集計もありますが、それ以前はありません。H26以前も含めた推移をみるため今回は「申請課程数」を単位としました。