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どこかの大学職員のブログ

教職課程認定基準の読み方:「又は」と「及び」に着目して

 

はじめに

法令用語としての「又は」や「及び」には一定の使用ルールが定められています。これを理解することが法令の正しい解釈を助け、法令に裏打ちされた実務の遂行を可能にします。

教職課程運営においては、免許法や同法施行規則等の法令や基準を理解することが欠かせません。なかでも教職課程認定基準(以下「認定基準」)は、「教職課程の認定を受けるのに必要な最低の基準」(認定基準1(2))であり、「この基準より低下した状態にならないようにする」(認定基準1(3))必要があるため、教職課程を開設・維持しようとする上で遵守しなければならない基準です。ところが、当該基準で用いられる「又は」や「及び」には、例外的用法や特殊な用法等が散見されます。そこで本記事では、認定基準における「又は」と「及び」の用法を取り上げ、これらをどう読んだらいいのか、その読み方を書いていきたいと思います。

なお、本記事では令和5年度開設用の『手引き』に収録されている令和3年12月22日最終改正の認定基準を参照します。

 

選択的接続詞:「又は」

原則

「又は」は2つまたは3つ以上の文言をつなぎその中のいずれかの文言を選択させる場合に用いる接続詞です(ぎょうせい法制執務研究会編『全訂 図説 法制執務入門』p.113)。

or」に相当し、「AかBか(そのいずれか一方)」を表す場合に用いられます。よって、Aを選択した場合、Bは選択されない(排他的)のが基本原則です。

 

例外的用法

ところが、例外的に「AかBか(またはその両方か)」を表す場合にも「又は」が用いられるケースがあります。

2 教育上の基本組織

(6)幼稚園教諭又は小学校教諭の教職課程は、教員養成を主たる目的とする学科等でなければ認定を受けることができない。

 

当該規定では、教員養成を主たる目的とする学科等でなければならないのは、①幼稚園教諭の課程のみの場合、②小学校教諭の課程のみの場合、③幼稚園教諭の課程と小学校教諭の課程の場合のいずれの読み方でも間違いにはなりません。

この「又は」は、一方を選択してももう一方が排除されない(非排他的)ため、「AかBか(またはその両方か)」(=and/or)を意味するものとして用いられています。

認定基準に限らず、法令一般においてまま見られる用法のようです。いずれか一方を指すものか、その両方を指す場合もあるのかの判断は外形的に判断することが不可能なので、規定の文脈から判断するほかありません。

 

特殊な用法

「又は」は一文のなかで2回使用することもできます。この場合、2通り(たすき掛け式、平行式)の解釈の仕方がありますが、認定基準中にはたすき掛け式の用例が見られます。

4-1 幼稚園教諭の教職課程の場合

(3)略

(※3)同一学科等において、小学校教諭の「教科に関する専門的事項」又は教科及び教科の指導法に関する科目における複数の事項を合わせた内容に係る科目(以下「複合科目」という。)と幼稚園教諭の「領域に関する専門的事項」又は「複合領域」の両方を担当する専任教員は、それぞれの課程において専任教員とすることができる。

 

これを図解すると次のようになります。

たすき掛け式の4通りの組み合わせはいずれも間違いではありません。

 

併合的接続詞:「及び」

「及び」は2つまたは3つ以上の文言をつなぐための接続詞です(前掲書p.108)。

and」に相当し、「AもBも」を表す場合に用いられます。

1 総則

(1)大学…は、…の認定を受けるにあたっては、免許法及び教育職員免許法施行規則…によるほか、この基準の定めるところにより認定をうけるものとする。

 

当該規定では、免許法と同法施行規則の両方に準拠しなければならないことを定めています。

 

読み方が難しい規定

ここまで「又は」と「及び」の読み方を整理してきましたが、以下の規定はどのように解釈すればよいでしょうか。

3 教育課程、教員組織(免許状の種類にかかわらず共通)

(9)以下に掲げる科目のそれぞれの専任教員において、少なくとも1人は教授でなければならない。

 ③「保育内容の指導法」又は「各教科の指導法」及び「教育の基礎的理解に関する科目等」

 

「又は」と「及び」が両方用いられています。当該規定の構造は1であり2ではありません。指導法科目か教職教養科目かという観点で構造化されているためです。

  1. 「保育内容の指導法」又は「各教科の指導法」及び「教育の基礎的理解に関する科目等」
  2. 「保育内容の指導法」又は「各教科の指導法」及び「教育の基礎的理解に関する科目等」

次に解釈です。少なくとも1人は教授でなければならないのはどの科目区分(上記「」で区切られているもの)でしょうか。実は1の解釈でも2の解釈でもありません。当該規定の解釈は、③として記載のある3つの科目区分のいずれかに1人教授がいればよい、というものです。「及び」とあるので少なくとも「教育の基礎的理解に関する科目等」には必ず教授が必要であるように読めますが、その必要はありません。

 

以下の規定における「及び」も「AもBも」という意とは異なる読み方をします。

4-1 幼稚園教諭の教職課程の場合

(3)幼稚園教諭の教職課程に配置する必要専任教員数は、以下のとおりとする。

 ・「保育内容の指導法」及び道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関する科目において1人以上

 ※非着色の「及び」はこれを含めた定型句です。

 

簡素化すれば「A及びBにおいて1人以上」となり、Aに1人とBに1人の計2人必要であるように読めますが、AかBに1人いればよいとするのが正しい解釈です。非排他的な「又は」(=and/or)に近い用法です。

 

次の規定における「及び」も同じです。

4-3 中学校教諭の教職課程の場合

(5)略

ⅱ)略

・「各教科の指導法」、教育の基礎的理解に関する科目(幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程及び特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解に係る部分に限る。)及び道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関する科目(道徳の理論及び指導法、総合的な学習の時間の指導法、特別活動の指導法、教育の方法及び技術、情報通信技術を活用した教育の理論及び方法に係る部分に限る。)において1人以上

 ※非着色の「及び」はこれを含めた定型句等です。

 

 

次の「又は」はどうでしょうか。

4-8 授業科目を共通に開設できる場合の特例

(2)略

ⅰ)略

② 道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関する科目(養護教諭及び栄養教諭の教職課程においては道徳、総合的な学習の時間等の内容及び生徒指導、教育相談等に関する科目)の教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)(小学校教諭、中学校教諭、高等学校教諭の教職課程においては教育の方法及び技術、情報通信技術を活用した教育の理論及び方法に係る部分)又は教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を含む。)の理論及び方法に係る部分

 ※非着色の「及び」はこれを含めた定型句等です。

 

授業科目を共通開設できる範囲を定めた規定です。この「又は」は一方を選択すればもう一方が排除される排他的な「又は」ではなく、例外用法として挙げた「AかBか(またはその両方か)」の非排他的な「又は」です。よって、「又は」の前の規定と後ろの規定の両方を同時に適用しても認定基準違反にはあたりません

 

その他

認定基準をチェックする過程でいくつか気になった規定がありました。

3 教育課程、教員組織(免許状の種類にかかわらず共通)

(6)認定を受けようとする課程の授業科目の担当教員は、その学歴、学位、資格、教育又は研究上の業績、実績並びに職務上の実績等を勘案して、当該科目を担当するために十分な能力を有すると認められる者でなければならない。

 

「及び」がないのに「並びに」が使われている用例です。「並びに」を「及び」にし、「~、~、~、~及び~」とするのが正しいように思いますが、「教育又は研究上の」という文言は実は「業績」だけでなく「実績」にもかかっています。

意図するところを正確に規定に落とし込めば「…その学歴、学位、資格、教育又は研究上の業績及び実績並びに職務上の実績等を勘案して…」とするのがいいように思います。

 

4-8 授業科目を共通に開設できる場合の特例

(2)略

 ⅵ)教育実践に関する科目の教職実践演習に係る部分については、幼稚園教諭、小学校教諭、中学校教諭、高等学校教諭の教職課程に共通に開設することができる。

 

並列される語句が3つ以上の場合は、最後の2つの語句だけを「及び」でつなぎますので、「…幼稚園教諭、小学校教諭、中学校教諭及び高等学校教諭の教職課程に…」とするのがいいように思います。

 

さいごに

認定基準には「AかBか」という用法以外の「又は」、「AもBも」という用法以外の「及び」が登場するので注意しましょう。

 

 

 

[参考文献]

平野敏彦(2015)「又は・若しくは・並びに・及び・かつ―法令用語釈義その3―」広島法科大学院論集、11、115-152頁。