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どこかの大学職員のブログ

「令和の日本型学校教育」答申にみる今後の教員養成改革の方向性(1)

 

 

はじめに

 令和3年1月26日に中央教育審議会から「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)」が出されました。

www.mext.go.jp

 初等中等教育に関する包括的な提言で構成されており、本文が97ページ、概要版でも13ページもあります。「グランドデザイン答申」でも本文は52ページですから、かなりの大作であることが分かります。

 本記事ではこの答申の提言内容を基に、すでに公表されている今後の改革方針を整理しつつ、今後の教員養成改革の方向性を推測します。

 

ICTの活用に向けた教師の資質・能力の向上

 教師のICT活用指導力の向上については、答申の総論及び各論それぞれで言及されています。総論では「主体的・対話的で深い学び」の実現や家庭などの学校外での学びの充実、特別な支援が必要な児童生徒への支援機会の提供等のためにICTの活用は有効であり、そのために教師がICT活用能力を身に付ける必要性を主張しています。

 各論部では、令和2年10月5日付文科省通知「「教職課程における教師の ICT 活用指導力充実に向けた取組について」(中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会)の送付について(通知)」の内容を参照したものと思いますが、現行のICT指導力向上施策を整理しています。

  • 第一に、2017年11月の免許法施行規則の改正により、「各教科の指導法」に「情報機器及び教材の活用」を含むこととされたこと。
  • 第二に、学校における ICT を活用した学習場面や各教科等の指導における ICT 活用に係る動画コンテンツを作成し活用を促していること。
  • 第三に、各大学が教員養成カリキュラムを編成するにあたって「教員の ICT 活用指導力チェックリスト」を活用することを促していること。

  今後の改革の方向性としては、

○ また,教職課程においては学生が ICT 活用指導力を体系的に身に付けていく必要があるため,各教科の指導法における ICT の活用について修得する前に,各教科に共通して修得すべき ICT 活用指導力を総論的に修得できるように新しく科目を設けることや,修得した内容を学校現場において生かすことができるよう実践の総まとめとして位置付けられている教職実践演習において模擬授業などの ICT を活用した演習を行うこと等について検討し,教職課程全体を通じて速やかな制度改正等を行うことが必要である(下線は筆者)。

と述べられています。下線部前段については、令和2年11月30日に開催された教員養成部会(第118回)において、「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)」から括弧書き部分を切り出し、「情報通信技術を活用した教育に関する理論及び方法」を事項に新たに追加し、1単位以上の修得を求めるよう免許法施行規則を改正する旨の説明がありました。

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 令和3年1月27日に開催された教員養成部会(第120回)では、当該事項のコアカリキュラム案も示されています。

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 今後のスケジュールとして、令和3年度中に施行規則改正及びコアカリキュラムの策定が行われ、各大学は令和4年3月末までに変更届を提出することになりそうです。担当教員の業績は「教育の方法及び技術」又は「各教科の指導法」の業績で可とされるようなので、現在学科に所属している教員で対応可能かと思いますが、独立した科目として開設する必要があるのか(「教育の方法及び技術」と併せての開設が可とされるか)は今後の議論を注視しておく必要がありそうです。また、到達目標(2)の4)「統合型校務支援システムを含む情報通信技術を効果的に活用した校務の推進について理解している。」については、学校現場で働く現職教員でなければ話題提供・指導が難しいように思いますので、教員審査とは別に教授可能な教員を探しておくとよいかもしれません。

 

 下線部後段について、現行の「教職実践演習の実施に当たっての留意事項」(平成20年10月24日 課程認定委員会決定)にある「授業で取り扱う内容・方法例」には「・模擬授業」との表記のみでICTの利活用は含まれていませんので、今後は「・模擬授業(情報機器の活用を含む。)」といったようにICTの利活用が明文化される可能性があります。今後、教職実践演習のシラバス提出を伴う課程認定申請を行う場合には留意しておいてほうがいいかもしれません。

 

幼児教育を担う人材の資質及び専門性の向上

  幼児教育の質の向上に関する章において、次のように提言されています。

○ 幼児教育に関する専門性の向上を図るとともに,子育ての支援を必要とする保護者への指導・助言,家庭教育,小学校教育との連携・接続といった幼児教育を巡る様々な課題に対応する力を養うため,より上位の幼稚園教諭免許状の取得や,小学校教諭免許状や保育士資格の併有を促進することが重要である(下線は筆者)。

 下線部前段について、2種免許状所有者には1種免許状に上進する努力義務が課されています(いわゆる「12年指定」)が、同答申では現職の幼稚園教諭の約7割が2種免許状所有者であることを指摘しています。免許管理者が2種免所有者に対して上進のために講習等の受講の指定を行う旨を定めた規定*1では「(幼稚園及び幼保連携型認定こども園の教員を除く。)」とあり、幼稚園教諭はその対象から除外されています。本規定の改正により、幼稚園教諭等も対象者に含めることで上位免許状の取得を促すということも考えられるかもしれません。*2

 あるいは別の方法として、別表第3により免許状を上進しようとする場合には、勤続年数に応じて大学において修得しなければならない最低修得単位数は逓減されていき、採用後12年で10単位まで減少します*3。しかし、12年指定を受けた日から起算して3年を経過する日までに1種免許状を取得しない場合には、最低修得単位数は45単位に戻ってしまいます*4この単位復元規定を廃止あるいは特例を設けて(令和●年までは最低取得単位が復元しないこととするなど)上位免許状取得のハードルを下げることにより取得を促すことも考えられます。

 

 下線部後段の小学校教諭免許状との併有促進について、旧法下では幼稚園の「教科に関する科目」の単位の修得方法は小学校の「教科に関する科目」を修得するものとされ科目の乗り入れが可能でしたが、新法では幼稚園に「領域に関する専門的事項」が新設され、幼稚園教育要領に定める5領域を修得しなければならない*5ことになりました。これにより、幼免と小免を併有するためには修得しなければならない単位数が増加することとなりました。この法改正があったばかりですので、科目の乗り入れの方向での併有促進は行われないのではないかと思います。ただし、「保育内容の指導法」については半数までは小学校の「各教科の指導法」をあてることができます*6ので、この点を柔軟化するといったことは選択肢としてはありうるかもしれません(可能性としては低いでしょう…。)。

 また、保育士資格との併有は「幼稚園教諭免許状を有する者における保育士資格取得特例」が現在実施されており、当初は平成31年度末までの特例期間でしたが、人材確保や施設運営の安定化に寄与するため令和6年度末までに延長となっています。更なる期間延長があるのか今後の議論に注目です。

 

(2)へ続く…

 (2)では、「義務教育9年間を見通した教師の養成等の在り方」「特別支援教育を担う教師の専門性向上」「外国人児童生徒への教育を担う教師等の指導力の向上」を取り上げたいと思います。

 

 

 

*1:免許法別表第3備考第8号

*2:平成18年7月の中教審答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」においてすでに「今後は幼稚園の教員も、いわゆる12年指定制度…[中略]…の対象とすることが適当である。」との提言がなされています。

*3:免許法別表第3備考第7号

*4:免許法別表第3備考第10号

*5:免許法施行規則第2条表備考第1号

*6:免許法施行規則第2条表備考第13号